骨格の優れたインド人を右に曲がると、そこは南国だった。靴の底が黒くなった。中央道梓川サービスエリアに高速バスが止まった。
男の前に一人の娘が座っている。男は安っぽい黒のコンバースの底についたカレー粉を払いながら立ち上がった。男の視界に娘が入る。娘は一万円以下と思しきファー付きモッズコートにくるまれながら眠っている。フードに隠れて顔は見えない。男は娘の顔を覗き込もうとして、ふいに自分がカレー臭いことに気がついた。男の唇と娘の唇が触れる寸前で娘が目を覚ます。男と目が合う。
「いやっ」
娘は目を覚ますや否や、自身の身体に覆い被さらんばかりの男をはねのけた。男が車内の狭い通路に尻を付く。
「私は処女です」
娘は半額以下になったセンスの悪いTシャツを眺めるような視線を男に向けた。男は三日剃っていない髭を摩りながら、窓の外を眺めた。男の視線の先には、陽気なサンバのリズムで踊り出したインド人がそこにいた。
男はもう一度、視線を娘に向ける。陽気なサンバのリズムで踊り出した娘がそこにいた。
「わ、た、し、は、し、ょ、じ、ょ、で、す」
インド人はリズムに合わせてそう言った。
「処女とは非処女ではないという意味です」
娘はインド人に合わせてそう言った。

